前回の第4回では、選考辞退を減らし、学生を自社の「ファン」にしていくためのコミュニケーション設計についてお伝えしました。
無事に選考プロセスを終え、内定通知を出して学生から承諾の連絡をもらったとき、採用担当者としてはひとまず安心する瞬間でしょう。
しかし、学生が内定を承諾したからといって、入社の意思が完全に固まったとは限りません。他社の選考を続けていたり、家族へ会社のことをうまく説明できず不安を感じていたりすることもあります。さらにはSNSや口コミサイトを調べ、「本当にこの会社でよいのだろうか」「自分だけが内定者だったら、職場になじめるだろうか」と不安を大きくしてしまうケースも少なくありません。
連載の最終回となる第5回のテーマは、こうした「内定辞退」を防ぐためのフォローのあり方です。採用人数も人員も限られている中小企業は、内定者とどのような関係をつくり、内定承諾から入社へつなげればよいのでしょうか。
今回も、新卒採用や地方学生の就職支援に長く携わってきた菅野智文さんに、中小企業ならではの強みを活かした内定辞退を防ぐフォロー策について伺いました。
内定を出した時点で、学生の意思決定が終わったとは限らない
サイセンタン編集部: 内定者フォローというと、内定を出した後に始める活動というイメージがあります。 まず、内定を出した時点の学生は、どのような状態にあるのでしょうか。
菅野: 内定を取ったことで、学生には一定の安心感が生まれると思います。 卒業後の行き先がまったく決まっていない状態ではなくなりますから、手当たり次第に企業へ応募することは少なくなります。
ただ、その内定先に十分な安心感や納得感を持っているとは限りません。 「内定はもらったけれど、給与や福利厚生を考えると、もっと良い会社があるかもしれない」 「働く場所や仕事が、まだよく分からない」 「社員の人は良かったけれど、本当に入社して大丈夫だろうか」 そう考えて、就職活動を続ける学生もいます。
サイセンタン編集部: 内定を持っていることと、その会社へ入社すると決めていることは別だと。
菅野: そうです。 企業側は、学生が内定を承諾すると、「この学生は来てくれる」と思いたくなります。 でも、学生側では、そこから改めて比較が始まることもあります。
企業からすると、自社の選考は終わっています。 一方、学生にとっては、自分の将来を決めるための検討が続いている。 この時間差を理解しておいた方がよいと思います。
【参考データ】 2027年卒の内々定保有学生の平均内々定社数は1.7社でしたが、30.6%は就職活動を継続していました。複数の内々定を持つ学生のうち、最終的な入社予定先から内々定を得た時期が、他社の内々定より後だった割合は52.6%です。最初に内々定を出した会社へ入社するとは限らず、学生は内々定後も企業を比較しながら意思決定を続けています。 参照:マイナビ「2027年卒 内定者意識調査」 URL:https://career-research.mynavi.jp/reserch/20260731_113245/
内定者フォローは、内定を出す前から始まっている
サイセンタン編集部: では、企業は内定を出した後、すぐにフォローを始める必要がありますか。
菅野: 僕は、「内定を出してからフォローを始める」という考え方では、遅いと思っています。 内定者フォローは、選考中から始まっています。
説明会や面接を通じて、学生が何を大切にしているのかを聞く。 どのようなことに不安を感じているのかを理解する。 そのうえで、その学生にとって必要な情報を伝える。
この積み重ねがなければ、内定後に急に連絡を増やしても、関係は深まりません。
サイセンタン編集部: 選考中は企業が学生を評価し、内定後から関係づくりを始めるのではない。
菅野: そうです。 説明会や面接の段階では一方的に選考しておいて、内定を出した途端に、 「ぜひ当社へ来てください」 「今後は定期的に交流しましょう」 と言われても、学生からすると急ですよね。
内定後のフォローで大切なのは、イベントを増やすことではありません。 選考中に把握した学生の価値観や不安を、その後も引き継ぐことです。
「以前、通勤時間を気にしていましたよね」 「ご家族へ仕事の説明をしたいと話していたので、事業内容をまとめた資料を用意しました」 「配属について不安があると思うので、実際の職場を見てみませんか」
このように、選考中の会話と内定後の対応がつながっていることが重要です。
内定者フォローの目的は、会社へ縛り付けることではない
サイセンタン編集部: 内定者フォローの目的を、「内定辞退を防ぐこと」と説明する企業もあります。 この考え方については、どうでしょうか。
菅野: 結果として辞退を減らすことは、もちろん大切です。 ただ、「辞退されないように学生を囲い込む」という発想になると、やり方を間違えます。
学生を頻繁に呼ぶ。 長時間の研修へ参加させる。 他社の選考状況を細かく確認する。 内定者向けの予定を次々に入れて、就職活動や大学生活を続けにくくする。 これは、フォローではなく拘束に近くなります。
サイセンタン編集部: 会社への接触回数を増やせば、入社意欲も上がるとは限らない。
菅野: そうです。 内定者フォローの目的は、学生が納得して入社を決められるようにすることだと思います。
そのために必要な不安を解消し、判断材料を渡す。 自分の意思で、この会社へ入ろうと思える状態をつくる。 企業が学生をつなぎ留めるのではなく、学生が自分で選べるようにする。 結果として、それが辞退を減らすことにつながります。
学生が「自分の言葉」で入社理由を説明できるか
サイセンタン編集部: 学生の入社意思が固まっているかどうかは、どのように確認すればよいでしょうか。
菅野: 学生が、自分の言葉で入社理由を説明できるかどうかは大きいと思います。
「社員の人が良かったから」 「雰囲気が良かったから」 だけでは、本人の中でも、まだ理由が弱いかもしれません。 もちろん、人が良いことは大切です。
ただ、学生が家族や友人から、 「どんな仕事をするの?」 「給与や休みはどうなっているの?」 「その会社は大丈夫なの?」 と聞かれたときに、答えられなければ不安になります。
サイセンタン編集部: 自分では好感を持っていても、周囲へ説明できない。
菅野: そうです。 本人を口説くためには、人間的な魅力が効くことがあります。 「この採用担当者は自分のことを分かってくれた」 「この人と一緒に働きたい」 それは非常に大きいです。
でも、周囲はそれだけでは納得しません。 給与、勤務地、仕事、会社の安定性、将来性、福利厚生。 そうした事実も必要です。
学生本人が感じた魅力と、家族や周囲へ説明できる情報。 この両方を持っている状態をつくることが、内定後の安心につながります。
【参考データ】 2027年卒の内定者が入社予定先を決める際、最も多く相談した相手は「親・保護者」でした。また、入社予定先を選んだ魅力としては、社員との交流を通じて感じた「社員の人柄・社風」のほか、「事業の独自性」「働き方」などが挙げられています。 参照:マイナビ「2027年卒 内定者意識調査」 URL:https://career-research.mynavi.jp/reserch/20260731_113245/
全員を同じイベントへ呼ぶだけでは、個別の不安は解消されない
サイセンタン編集部: 一般的な内定者フォローでは、内定者懇親会や研修、社員交流会などが行われます。 こうした一律のプログラムは必要でしょうか。
菅野: 必要なものもあります。 内定者同士が会うことや、社員と話すことによって、不安が軽くなる学生もいます。
ただ、全員を同じプログラムへ参加させればよい、という話ではありません。 学生によって、抱えている不安も、大学生活の状況も違います。
部活動を最後まで続けたい学生もいます。 卒業論文や研究が忙しい学生もいます。 アルバイトをしながら、学費や生活費を支えている学生もいます。 そうした学生を、会社の都合で何度も呼び出す必要があるでしょうか。
サイセンタン編集部: 内定者フォローへの参加が、学生の負担になってしまうこともある。
菅野: あります。 会社としては良かれと思って、 「内定者向け説明会をもう一度やります」 「グループワークを行います」 「入社前研修へ毎月参加してください」 と予定を入れます。
でも、その内容が学生の不安解消にも、入社準備にもつながっていなければ、単に拘束しているだけです。 何のために参加してもらうのか。 その学生に本当に必要なのか。 参加しなかった場合に、不利益を感じさせないか。 一度確認した方がよいと思います。
内定者フォローは、一律対応より「個別対応」が重要になる
サイセンタン編集部: 採用人数の少ない中小企業は、どのような内定者フォローを行えばよいでしょうか。
菅野: 採用人数が少ないのであれば、全員へ同じことをする必要はないと思います。 一人ひとりの希望に合わせて変えてよい。
例えば、頻繁に社員と話したい学生には、定期的に面談の機会をつくる。 入社まで大学生活へ集中したい学生には、必要な連絡だけにする。 配属が不安な学生には、配属予定部署の社員と話してもらう。 仕事を覚えられるか不安な学生には、若手社員から入社後の教育について説明してもらう。
一律の懇親会や研修だけでは、個人の不安には答えられません。
サイセンタン編集部: 学生ごとに対応が違うと、不公平だと感じられませんか。
菅野: そこは、あらかじめ全員へ説明しておけばよいと思います。
「当社では、内定者全員へ同じ頻度で連絡するのではなく、それぞれの希望に合わせてフォローします」 「面談や職場見学を希望する場合は、いつでも言ってください」 と伝える。
全員を同じように扱うことが公平なのではなく、それぞれに必要な支援を用意することが公平だと思います。
【参考データ】 リクルートマネジメントソリューションズの企業調査では、採用充足企業と未充足企業を比較した結果、内定者に対する人事やリクルーターの個別面談に差が見られました。同調査は、一律の情報提供や懇親会だけでなく、個別の関係構築を通じた対応が、内定辞退の防止に寄与している可能性を指摘しています。 参照:リクルートマネジメントソリューションズ「新卒採用選考プロセスとフォローについての実態調査」 URL:https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/6713572397/
連絡不足も、連絡のしすぎも学生を不安にさせる
サイセンタン編集部: 内定者への連絡頻度は、どの程度が適切なのでしょうか。
菅野: 全員に共通する正解はないと思います。
連絡が少なすぎれば、 「内定を出した後は放置されている」 「本当に入社してよいのだろうか」 と感じる学生がいます。
反対に、毎週のように連絡が来れば、 「監視されているように感じる」 「大学生活へ集中できない」 「入社前から面倒な会社だ」 と思う学生もいます。
サイセンタン編集部: 頻度そのものより、学生との合意が大切なのでしょうか。
菅野: そうですね。 内定を出したときに、聞けばよいと思います。
「入社まで、どのくらいの頻度で連絡があると安心ですか」 「大学や部活動の予定で、忙しい時期はありますか」 「誰と話せると安心しますか」 「職場見学や社員面談を希望しますか」
本人に聞かず、企業側だけで最適な頻度を決めるのは難しいです。 一度決めた後も、状況は変わります。 卒業論文が忙しくなることもありますし、入社が近づいて不安が強くなることもあります。 定期的に確認しながら調整した方がよいと思います。
「連絡すること」を目的にしない
サイセンタン編集部: 連絡の間隔が空くと不安なので、特に用事がなくてもメールを送った方がよいでしょうか。
菅野: 用事がないのに、形式的な連絡だけを送っても、関係は深まらないと思います。 「最近どうですか」 「入社を楽しみにしています」 という連絡が悪いわけではありません。
ただ、毎回同じ文面が送られてくるだけでは、自動送信と変わりません。 それよりも、以前の会話を踏まえた内容を入れることです。
「卒業研究は、今どの段階ですか」 「以前話していた資格試験は終わりましたか」 「配属先の先輩から、仕事について説明する時間をつくれます」 「ご家族へ説明するための資料を用意しました」
その人に連絡していると分かる内容にする。 回数よりも、連絡の中身が重要だと思います。
中小企業は、配属先の職場と上司を見せられる
サイセンタン編集部: 大手企業と比較した場合、中小企業だからこそできる内定者フォローはありますか。
菅野: 職場や、一緒に働く人を具体的に見せられることだと思います。 大手企業では、採用担当者と配属先の部署が別になっていることが多いですよね。 内定時点では、配属先や勤務地が決まっていないこともあります。
中小企業も完全に確定できるとは限りませんが、大手企業よりは、入社後に働く場所や関わる人を具体化しやすい。 これは、かなり大きな強みです。
サイセンタン編集部: 採用担当者との面談だけでなく、配属の可能性がある部署へ案内する。
菅野: そうです。 実際の職場を歩いてもらう。 上司になる可能性がある人と話してもらう。 若手社員の席や仕事の様子を見せる。
可能であれば、 「入社したら、この辺りで仕事をする可能性があります」 「この社員が、最初に仕事を教える予定です」 と説明する。 場合によっては、入社後に使う席をイメージできるところまで見せてもよいと思います。
サイセンタン編集部: 会社の説明ではなく、自分が働く場所として見てもらう。
菅野: そうです。 内定者が不安なのは、企業理念が分からないことだけではありません。 毎朝どこへ行き、誰と話し、何をするのかが分からないことです。
その不透明な部分を、中小企業は大手企業より具体的に見せられる可能性があります。
【参考データ】 2027年卒の内定者が、入社予定先について「他社にはない魅力」として挙げた内容には、「社員の人柄・社風」「働き方」が多く含まれています。特に、人事担当者や社員との交流を通じて企業の魅力を感じたという声が確認されています。 参照:マイナビ「2027年卒 内定者意識調査」 URL:https://career-research.mynavi.jp/reserch/20260731_113245/
会わせる社員は、全員同じでなくてよい
サイセンタン編集部: 内定者へ社員を紹介する場合、どのような社員を選ぶべきでしょうか。
菅野: 学生のタイプに合わせて変えてよいと思います。 元気で話のうまい社員だけを会わせればよいわけではありません。
静かな学生や、慎重に考える学生に、明るく積極的な社員ばかりを会わせると、 「この会社には、自分のような人はいない」 と感じることがあります。
サイセンタン編集部: 入社後に近い立場となる社員や、性格の近い社員を選ぶ。
菅野: そうです。 仕事の不安が強い学生には、入社当時に苦労した若手社員。 将来のキャリアが気になる学生には、中堅社員や責任者。 人間関係が不安な学生には、配属予定部署の上司や先輩。 趣味や大学時代の活動が近い社員がいるなら、その人に会ってもらってもよい。
全員に同じエース社員を会わせるよりも、その学生が「自分もここで働けそう」と思える相手を考えることが大切です。
職場を見せるだけでなく、仕事と人を「約束できる範囲」で伝える
サイセンタン編集部: 配属先や上司が変わる可能性もある中で、どこまで具体的に伝えてよいのでしょうか。
菅野: 変わる可能性があることを、確定したように言ってはいけません。 ただ、変わる可能性があるからといって、何も伝えないのも違います。
現時点では、どの部署への配属可能性が高いのか。 最初にどのような仕事を任せる予定なのか。 誰が教育を担当する可能性があるのか。 変更があるとすれば、どのような理由が考えられるのか。 分かっている範囲で正直に話せばよいと思います。
サイセンタン編集部: 「配属は未定です」で終わらせない。
菅野: そうです。 学生は、絶対的な保証だけを求めているわけではありません。 会社がどこまで自分の入社後を考えているのかを知りたいんです。
「あなたには、この仕事から始めてもらいたいと考えています」 「この上司の下で育成する案を考えています」 と言われれば、会社の中に自分の居場所が用意されていると感じられます。
中小企業の内定者フォローでは、ここまで具体的に話せることが大きな武器になります。
学生の反応が変わったら、辞退の予兆ではなく「対話のきっかけ」と考える
サイセンタン編集部: 内定辞退の予兆を早めに把握する方法はありますか。
菅野: 連絡への反応や、内定者向けプログラムへの参加状況が変わることはあります。 以前はすぐに返信していたのに、返信が遅くなった。 面談や懇親会への欠席が続く。 内定者向けサイトを以前ほど確認しなくなった。 こうした変化があれば、何か状況が変わった可能性はあります。
サイセンタン編集部: 企業側からすると、辞退の兆候だと考えてしまいます。
菅野: すぐに「辞退しそうだ」と決めつけない方がいいです。 卒業論文が忙しいのかもしれません。 体調が悪いのかもしれません。 家庭の事情があるかもしれません。 他社と迷っている可能性もあります。
必要なのは、監視することではなく、話せる状態をつくることです。
「最近、忙しそうですが大丈夫ですか」 「入社に向けて気になっていることはありませんか」 「連絡の頻度を減らした方がよければ教えてください」 と確認する。
ログイン頻度や出席率は、学生を追及する材料ではありません。 会話を始めるきっかけとして使うものだと思います。
SNSや口コミで悪い評判を見られることを前提にする
サイセンタン編集部: 内定後、学生が企業名を検索し、口コミサイトやSNSを見ることもあります。 悪い口コミがある企業は、どのように対応すべきでしょうか。
菅野: 見ないでほしいと思っても、学生は見ます。 企業側の公式情報だけでなく、口コミやSNSで、実際の働き方を確認します。
「ブラック」という言葉と一緒に社名が検索されている会社もあります。 業界全体に、厳しいイメージを持たれている場合もあります。 そこから逃げずに説明した方がよいと思います。
サイセンタン編集部: 悪い口コミを否定するのでしょうか。
菅野: 全部を否定するだけでは、信頼されにくいと思います。 なぜ、そのように書かれているのか。 過去に実際に問題があったのか。 現在は何を改善したのか。 仕事の性質上、大変な部分は何なのか。 会社として認識している課題は何なのか。 それを説明することです。
サイセンタン編集部: 都合の悪い情報も含めて、会社側の見解を出す。
菅野: そうです。 口コミがすべて正しいとは限りません。 ただ、学生が不安に思っているのに、会社が何も説明しなければ、口コミ側の情報だけが残ります。
「事実と違います」と言うだけではなく、事実としてどのような状態なのかを見せる。 内定者フォローの中で、学生が聞きにくいことも質問できるようにしておくことが大切です。
【参考データ】 2026年卒学生の70.6%が、企業の公式情報だけでなく、口コミサイトやSNSなどの非公式情報を確認していました。非公式情報を確認した理由では、「ネガティブな情報も含めて判断材料にしたい」が58.1%で最多でした。学生が非公式情報から得たい内容としては、「社員の本音や不満点」「実際の残業時間や労働時間」「給与・待遇の実態」「職場の人間関係や雰囲気」などが上位に挙がっています。 参照:マイナビ「公式情報だけでは足りない?学生が非公式情報に求める“リアル”とは」 URL:https://career-research.mynavi.jp/column/20250926_102521/
新卒を1人だけ採用するなら、「同期がいない不安」を放置しない
サイセンタン編集部: 採用人数が1人の中小企業では、内定者懇親会を開くこともできません。 1人だけ採用する場合、どのようなフォローが必要でしょうか。
菅野: 1人採用の場合は、本人が孤立しないように意識した方がよいと思います。 同期がいないこと自体が、必ず悪いわけではありません。
ただ、入社前の段階で、 「自分だけが新卒社員なのか」 「相談できる人はいるのか」 「周囲は経験者ばかりではないか」 と不安に感じることがあります。
サイセンタン編集部: 採用人数を増やし、2人、3人と同期をつくる方法もありますか。
菅野: 採用計画として可能なのであれば、複数名を採ることには意味があります。 ただ、同期をつくるためだけに、無理に採用人数を増やすことはできません。
1人採用であれば、同期に代わる関係を意識してつくることです。
サイセンタン編集部: 例えば、どのような関係でしょうか。
菅野: 年齢の近い若手社員を相談相手にする。 直属の上司とは別に、メンターを決める。 別部署の若手社員とも話せるようにする。 グループ会社や取引先などに同年代の新入社員がいれば、合同研修や交流の機会を検討する。
入社前から、 「困ったときは、この人へ相談してください」 と顔が分かる状態にしておく。 同期がいないことを隠すのではなく、その代わりにどのような支援を用意するのかを伝えることが大切です。
内定者フォローを人事だけの仕事にしない
サイセンタン編集部: 内定者フォローの負担が、採用担当者へ集中してしまう会社もあります。 どのような体制をつくればよいでしょうか。
菅野: 採用担当者一人で、すべてを抱える必要はありません。 学生の不安によって、対応する人を変えればよいと思います。
会社の将来性や経営について聞きたいなら、経営者や役員。 配属先の仕事について知りたいなら、現場の責任者。 入社後の生活や人間関係が気になるなら、若手社員。 研修や手続きについては、採用担当者。
それぞれの役割を決めておく。
サイセンタン編集部: 採用担当者は、全員を巻き込む調整役になる。
菅野: そうです。 学生の状態を把握し、 「次は、この社員と会ってもらった方がよい」 と考える。
採用担当者自身が、すべての不安へ答える必要はありません。 むしろ、実際に一緒に働く社員が対応した方が、説得力があることもあります。
ただし、誰を出してもよいわけではありません。 学生を採用する意味を理解し、誠実に対応できる人にお願いすることです。
中小企業が見直したい内定者フォローの9つのポイント
内定を出した時点で、学生の意思決定が完了したと思っていないか 内定承諾後も、学生は他社や働き方を比較している可能性があります。
選考中に聞いた学生の価値観や不安を引き継いでいるか 面接で得た情報を、内定後の面談や社員紹介に反映します。
学生が自分の言葉で入社理由を説明できるか 人の良さだけでなく、仕事、給与、勤務地、会社の安定性など、家族へ説明できる材料を渡します。
内定者を無駄に呼んでいないか 懇親会や研修は、実施することを目的にせず、学生の不安解消や入社準備に必要かを確認します。
全員へ同じ頻度・内容で連絡していないか 部活動、卒業研究、生活状況、本人の希望に合わせて、連絡や面談を調整します。
職場、上司、仕事を具体的に見せているか 配属可能性のある部署を案内し、一緒に働く可能性が高い社員と会う機会をつくります。
学生のタイプに合う社員を紹介しているか 明るく話のうまい社員だけでなく、学生が自分を重ねやすい社員との接点を設けます。
反応の変化を、学生を追及する材料にしていないか 返信や参加状況の変化があれば、辞退と決めつけず、状況を確認する会話のきっかけにします。
1人採用の内定者を孤立させていないか 同期がいない場合は、若手社員、メンター、別部署の社員など、相談できる関係を事前につくります。
内定者フォローは、イベントではなく「入社後を一緒につくること」
サイセンタン編集部: 最後に、内定辞退に悩む中小企業の採用担当者へ、伝えたいことをお願いします。
菅野: 内定者フォローというと、 「内定式を開催する」 「懇親会を開く」 「毎月メールを送る」 といった施策の話になりやすいと思います。
でも、施策を実施したからといって、学生の不安が解消されるとは限りません。 学生は一人ひとり違います。
頻繁に連絡がほしい学生もいれば、必要なときだけ連絡してほしい学生もいます。 社員とたくさん話したい学生もいれば、まず職場や仕事を見たい学生もいます。 入社後の仕事が不安な学生もいれば、給与や生活、家族への説明を気にしている学生もいます。 その違いを理解することです。
そして、中小企業だからこそできることを使う。 実際の職場を見せる。 上司になる可能性がある人と会ってもらう。 最初に任せる仕事を具体的に話す。 その学生に合う社員を紹介する。 「あなたが入社した後のことを、ここまで考えています」と見せる。
内定者フォローは、会社が学生を囲い込むことではありません。 入社後の働き方を、学生と会社が一緒に具体化していくことです。
内定を出して終わりではなく、学生が自分の意思で、 「この会社へ入ろう」 「ここなら働いていけそうだ」 と思えるところまで向き合う。
採用人数が少ない中小企業だからこそ、一律のプログラムではなく、一人ひとりに合わせたフォローができます。 その個別対応こそが、大手企業とは違う、中小企業の内定者フォローの強みだと思います。
【連載の終わりに】大手の真似はしなくていい。中小企業には「目の前の1人」と向き合う強みがある
全5回にわたり、「新卒採用の常識を見直す」をテーマに、地方企業や中小企業が大手企業とどう戦うべきかをお届けしてきました。
第1回: 大手と「条件」で競うのではなく、「この街で働き、暮らす未来」を生活まるごと提示する。
第2回: 採用市場のスケジュールに振り回されず、応募が減る秋以降の「後半戦」に、1人説明会と最短選考で勝機を掴む。
第3回: 見栄えのよい応募数(エントリー数)を追うのをやめ、出会えた学生との「対話の数と理解の深さ」をKPIにする。
第4回: いきなり壮大なビジョンを語るのではなく、「安心→理解→味方→ファン」の順でコミュニケーションを設計し、辞退を防ぐ。
第5回: 内定者を一律のイベントで囲い込むのではなく、職場や上司を見せる「個別対応」で入社への不安を解消する。
すべての回を通して菅野さんが一貫して伝えていたのは、「大手企業の採用手法の縮小版をやろうとしないこと」です。
知名度や採用予算、待遇面で大手企業に及ばなかったとしても、諦める必要はありません。目の前の学生一人ひとりの名前を覚え、その人が大切にしている価値観や不安に耳を傾け、自社で描ける手触りのある未来を一緒に考えること。それこそが、採用人数が限られている中小企業だからこそできる、最強の武器になります。
「今はこういう時期だから」「他社がこうしているから」という採用市場の思い込みを手放し、自社にとって本当に必要な採用の形を見つけること。本連載が、貴社の採用活動をアップデートし、素晴らしい人材との出会いに繋がるヒントになれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
【第1回に戻る⇒】
インタビューに登場した人
菅野 智文さん 株式会社ここだな 代表取締役 元リクルート「就職ジャーナル」編集長
株式会社リクルートにおいて、新卒採用や学生の就職活動に関わる事業に長く従事し、「就職ジャーナル」の編集長を経験。 現在は「株式会社ここだな」の代表取締役として、学生や若者のキャリア形成・就職支援、大学や企業に関わる各種支援に取り組んでいます。 企業が伝えたい採用情報だけではなく、学生が就職活動の中で何を感じ、何を不安に思い、どのように企業を選んでいるのかという視点から、新卒採用のあり方を提言しています。
株式会社ここだな URL:https://kokodana.co.jp/
新卒採用を、応募数だけで考えていませんか?
本連載では、地方企業や中小企業の新卒採用について、次のようなテーマを取り上げてきました。
・大手企業と同じ条件で比較されないための魅力づくり ・夏インターンシップと秋以降の採用戦略 ・エントリー数だけに頼らない採用KPI ・説明会や面接での学生理解と動機形成 ・内定辞退を防ぐための個別フォロー
これらに共通しているのは、採用媒体へ求人を掲載するだけでは、採用課題のすべてを解決できないということです。
応募が集まらない原因が、求人情報にあるとは限りません。 説明会への案内方法、学生へ伝える情報、面接官の対応、選考スピード、職場の見せ方、内定後のフォローなど、採用活動全体を見直す必要がある場合もあります。
株式会社アド・イーグルでは、新卒・中途・アルバイト採用における求人広告の掲載だけでなく、採用戦略の立案、求人原稿や採用サイトの制作、応募効果の改善、選考への導線設計など、企業の採用活動を幅広く支援しています。
このようなお悩みをご相談ください
・新卒採用を始めたいが、何から着手すべきか分からない ・エントリーはあるが、説明会や選考へつながらない ・自社の魅力を学生へうまく伝えられていない ・大手企業や同業他社との差別化ができていない ・面接辞退や内定辞退が多い ・採用担当者が少なく、学生への個別対応ができない ・求人媒体、採用サイト、説明会の役割を整理したい ・現在の新卒採用活動を一度、客観的に見直したい
採用人数や募集職種、これまでの採用状況を伺いながら、応募を集める方法だけでなく、説明会、選考、内定者フォローまで含めて、改善すべきポイントを整理します。
新卒採用・採用活動に関するお問い合わせ
株式会社アド・イーグル URL:https://www.adeagle.co.jp/
お問い合わせフォーム URL:https://www.adeagle.co.jp/contact
お問い合わせの際は、相談内容欄に 「菅野智文さんの新卒採用インタビュー記事を見た」 とご記載ください。
お急ぎの場合は、株式会社アド・イーグルへ電話でもお問い合わせいただけます。 電話番号:03-3836-9121