少子化による学生数の減少、オンライン選考の定着、初任給の引き上げ、インターンシップの早期化。地方企業や中小企業の新卒採用を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化しています。
全国規模の企業や都市部の企業が、地方に住む学生ともオンラインで接点を持てるようになった今、地方企業の採用競合は、必ずしも近隣の企業だけではありません。
では、知名度や採用予算、給与、福利厚生で大手企業に及ばない企業は、どのように学生から選ばれればよいのでしょうか。
今回お話を伺ったのは、元リクルート「就職ジャーナル」編集長で、現在は「株式会社ここだな」代表取締役として、企業や大学の新卒採用・就職支援に携わる菅野智文氏です。
応募数を追いかける採用から、一人ひとりの学生と向き合う採用へ。そして、自社だけで採用を完結させるのではなく、学校、保護者、地域を巻き込んだ「地域の採用基盤づくり」へ。
地方企業、中小企業が大手企業とは異なる戦い方を選ぶためのヒントを探ります。
オンライン選考によって、地方企業の競争相手は全国に広がった
サイセンタン編集部: まず、地方や郊外にある中小企業を取り巻く新卒採用の環境は、以前と比べてどのように変わったのでしょうか。
菅野: 若い人の数が減っているという大きな流れは、もちろんあります。 ただ、地方企業にとって特に大きかったのは、コロナ禍をきっかけに、オンラインの説明会や面接が一気に広がったことだと思います。
企業側も実際にオンライン選考をやってみたら、意外に問題なくできた。学生側も、東京や大阪へ行かなくても、いろいろな企業の選考を受けられるようになりました。 学生にとっては選択肢が増えたわけです。これは良いことですよね。
でも、地方の企業からすると、今までは地理的に競合していなかった会社に、学生を持っていかれるようになったともいえます。 以前であれば、地方の学生が東京の企業を受けるには、説明会や面接のたびに交通費も時間も必要でした。そのハードルが、かなり下がりました。
今は、地方に住みながら東京本社の企業を受けられます。全国企業の地方支社も、自宅からオンラインで受けられます。 地方企業の採用競合が、地域の中だけではなく、全国に広がったということです。
サイセンタン編集部: 採用市場全体が厳しくなっただけではなく、地方企業が比較される相手そのものが変わったのですね。
菅野: そうです。 地方の会社からすれば、学生が都市部へ行かなくても大手企業を受けられるようになった。その分、以前より採りにくくなったと感じるのは当然だと思います。
【参考データ】 2026年卒の大卒求人倍率は1.66倍でした。特に従業員300人未満の企業では8.98倍となっており、企業規模が小さいほど、採用したい人数と就職を希望する学生数の差が大きくなっています。 参照:リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査(2026年卒)」 URL:https://www.works-i.com/surveys/report/250424_recruitment_saiyo_ratio.html
地元で働きたい学生も、最初から地元の中小企業を見るわけではない
サイセンタン編集部: 地方の学生には、「地元で働きたい」という意向も一定程度あると思います。 地元志向の学生であれば、地方企業にも十分な採用の可能性があるのではないでしょうか。
菅野: もちろんあります。 ただし、「地元で働きたい学生だから、地元の中小企業を見てくれる」と考えるのは、少し楽観的だと思います。
僕は地方の学生側の支援にも関わっているので、学生がどのような順番で企業を見ているかを感じる機会があります。 地元で働きたい学生が最初に見るのは、地元の銀行や有名メーカーなど、その地域を代表する大手企業です。 その次に来るのが、全国規模の企業の地方支社です。
地元資本の企業ではないけれど、地元から通える。給与や福利厚生、研修制度は全国基準で整っている。そうした会社が候補になります。 その後に、地元の中堅・中小企業が並ぶということが多いと思います。
サイセンタン編集部: 地元志向であっても、「地元の中小企業」と「全国企業の地方拠点」が同じ土俵に並ぶということですね。
菅野: そうです。 全国企業の地方支社であれば、待遇面も違いますし、採用の見せ方も洗練されています。 東京や大阪の激しい採用市場で戦っている会社が、そこで磨いた説明会や資料を地方でも使うわけです。
一方、地元企業は、採用担当者が手作業でパンフレットをつくり、社内の会議室や体育館のような場所にパイプ椅子を並べて説明会をする。 もちろん、会場が立派なら採用できるという話ではありません。
ただ、学生はそうした一つひとつから、「この会社はどのような会社なのだろう」と判断します。 説明資料、会場、話す人、連絡の速さ。採用活動全体から、会社の姿勢や、自分がどのように扱われるのかを感じ取っているんです。
学生の半数は大手志向。それでも中小企業に可能性はある
サイセンタン編集部: 学生の大手志向は、現在も強いのでしょうか。
菅野: 大手企業を希望する学生は多いと思います。 ただ、全員が大手しか見ていないわけではありません。
重要なのは、「中小企業でもよい」と考えている学生に対して、中小企業を選ぶ具体的な理由を示せているかです。
「大手ではありませんが、アットホームです」 「若いうちから幅広い仕事を任せます」 「地域に密着しています」
地方企業の採用情報では、こうした表現がよく使われます。でも、それだけで学生が「この会社に行こう」とはなりません。 大手企業を選ばず、その会社を選ぶことで、何を得られるのか。 そこを学生が自分の生活として想像できるところまで伝える必要があります。
サイセンタン編集部: 「中小企業でもよい」と思っている学生がいても、「では、なぜこの会社なのか」が伝わらなければ選ばれないということですね。
菅野: そうですね。 中小企業だから選ばれないのではなく、選ぶ理由が見えないというケースも多いと思います。
【参考データ】 2027年卒学生の大手企業志向は50.9%でした。一方、中堅・中小企業志向も44.0%あり、2年連続で増加しています。学生の半数近くが、中堅・中小企業を選択肢として考えています。 参照:マイナビ「2027年卒大学生就職意識調査」 URL:https://career-research.mynavi.jp/reserch/20260424_109895/
「会社と仕事」だけで比較されたら、基本的には勝てない
サイセンタン編集部: では、地方の中小企業は、大手企業や全国企業とどのように戦えばよいのでしょうか。
菅野: かなり大きく言ってしまうと、会社と仕事という軸だけで比べられたら、基本的には勝てないと思うんです。
サイセンタン編集部: そこは、かなり厳しい見方ですね。
菅野: 厳しいですけれど、現実だと思います。 会社の規模、給与、福利厚生、研修制度、キャリアの選択肢、部署の数。 それを大手企業と横に並べたとき、地元の中小企業の方が、すべて充実して見えるということはなかなかありません。
だからといって、給与や福利厚生を改善しなくてよいという話ではないですよ。 学生が安心して働ける条件を整えることは、当然必要です。
ただ、大手企業と同じ項目を並べて、「うちの会社も負けていません」と見せようとすると、どうしても大手企業の小さい版になってしまう。 学生から見れば、言葉は悪いですが、「大手企業の下位互換」のように見える可能性があります。 そこで戦ってはいけないと思います。
サイセンタン編集部: 会社の規模や仕事内容以外の比較軸をつくる必要があると。
菅野: そうです。 仕事だけではなく、生活まで含めて比較してもらうことです。
その会社に入ったら、どこで、誰と、どのような毎日を送るのか。 仕事が終わった後に何ができるのか。休日をどう過ごせるのか。家族や友人と、どのような距離で暮らせるのか。 そこまで含めて、「こちらの生き方もいいかもしれない」と思ってもらう必要があります。
売るべきものは、求人ではなく「その地域での生活」
サイセンタン編集部: 「生活まで見せる」というのは、具体的にはどういうことでしょうか。
菅野: 例えば、地方で働けば、仕事が終わった後に高校時代の友人と会えるかもしれません。 実家の近くで暮らせる。家族に何かがあったときにも、すぐに行ける。都市部に比べて通勤時間が短い。休日には、釣りやキャンプ、スポーツなど、その地域でできることがある。
そういう生活全体を見せるということです。
僕は保護者向けのセミナーをすることもあります。 そこで、子どもに地元へ戻ってきてほしいと思っている保護者には、「インターンシップのための交通費を出して、まず実家へ帰ってきてもらってください」と話します。 さらに言えば、地元の友達と会うためのお金も出してあげた方がいい。
サイセンタン編集部: そこまでですか。
菅野: そこまでしないと、地元で暮らす感覚を思い出さないんですよ。
実際に地元へ帰り、昔の友人と会う。 そこで、「この地域で働けば、仕事が6時に終わって、夜に高校時代の友人と食事ができる」と実感する。
東京や大阪で一人で生活することと、地元でそういう生活をすること。自分にはどちらが合うのか。 そこまで具体的に考えて、ようやく「地元で働くのもいいかもしれない」という選択肢が生まれます。
「地元で働くことは素晴らしい」と言葉で説得するだけでは、難しいです。 本人に、その生活を想像してもらう。可能なら、実際に体験してもらう必要があります。
【参考データ】 2027年卒で地元就職を希望する学生は58.7%でした。地元外へ進学したUターン顕在層が地元就職を希望する理由は、「両親や祖父母の近くで生活したい」が47.2%、「地元の風土が好き」が39.4%、「実家から通えて経済的に楽、または地元での生活に慣れている」が33.8%でした。仕事の内容だけでなく、家族との距離や暮らしも、就職先を考える要因になっています。 参照:マイナビ「2027年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査」 URL:https://career-research.mynavi.jp/reserch/20260515_110438/
「地域密着」という言葉だけでは、学生に暮らしは見えない
サイセンタン編集部: 地方企業の求人では、「地域密着」や「転勤なし」といった表現がよく使われます。それだけでは足りないということでしょうか。
菅野: 足りないと思います。
「地域密着」という言葉から、学生が何を想像するでしょうか。 会社が地元にある、ということしか分からないかもしれません。
重要なのは、地域密着という言葉を、生活の場面に分解することです。
何時に家を出るのか。通勤に何分かかるのか。車通勤なのか、電車通勤なのか。どの地域に住んでいる社員が多いのか。 仕事は何時ごろ終わるのか。平日の夜をどのように過ごしているのか。休日には、どこへ行き、何をしているのか。 地元出身の社員だけなのか。地域外から来た社員もいるのか。家族を持った後も、その地域で働き続けられるのか。
そこまで見せて、初めて学生は自分の生活として考えられます。
サイセンタン編集部: 採用サイトでよくある「社員の一日」も、仕事だけではなく、生活まで広げた方がよいですか。
菅野: そうですね。
「社員の一日」は、出社して、打ち合わせをして、顧客を訪問して、退社するという仕事の説明になりがちです。 地方企業であれば、その後まで見せた方がよいと思います。
退社後に家族と夕食を取る。地元のスポーツチームの練習へ行く。友人と会う。週末は車でキャンプへ行く。 そういう生活が合う学生もいます。
もちろん、都市部で刺激的な生活をしたい学生には響かないかもしれません。 でも、それでいいんです。 すべての学生に選ばれる必要はありません。
自社や地域の生活が合う学生に、「自分にはこちらの方が合っている」と判断してもらうことが重要です。
給与差をごまかさず、生活設計に必要な情報を出す
サイセンタン編集部: 生活を見せるとき、「地方は生活費が安い」という説明をする企業もあります。これは有効なのでしょうか。
菅野: 言い方には注意が必要です。
「地方は生活費が安いから、給与が低くても大丈夫です」という説明になったら、学生は納得しないと思います。 給与の低さを正当化されているように感じるかもしれません。
地方企業が給与だけで大手企業に勝つのが難しいことはあります。 でも、だからといって曖昧にしたり、精神論でごまかしたりしてはいけません。
初任給はいくらか。残業代はどのように支給されるか。住宅手当や通勤手当はあるか。車が必要なら、どのくらいの費用がかかるか。 実家から通う社員はどのくらいいるのか。一人暮らしの社員はどこに住んでいるのか。会社から住居探しの支援はあるのか。
学生が自分で生活を計算できる情報を出すことが必要です。
サイセンタン編集部: 「人が良い会社です」と伝える前に、生活条件を誠実に開示する必要があると。
菅野: そうですね。待遇では勝てないから、人の良さで勝負しようという話ではありません。
待遇や生活条件をきちんと出したうえで、人の魅力や仕事の魅力を伝える。 学生が最初に不安になるところを曖昧にしたまま、理念や人の良さだけを話しても、なかなか届かないと思います。
【参考データ】 2027年卒学生が企業選びで重視する項目は、「安定している会社」が55.4%で最多でした。「給料の良い会社」も5年連続で増加して26.6%となり、「自分のやりたい仕事ができる会社」の25.5%を上回っています。 参照:マイナビ「2027年卒大学生就職意識調査」 URL:https://career-research.mynavi.jp/reserch/20260424_109895/
近隣企業は、学生を奪い合う相手ではない
サイセンタン編集部: 地方企業が単独で大手企業と戦うのは難しいという話がありました。 地域の他社と連携する方法もあるのでしょうか。
菅野: むしろ、地域全体でやらなければ難しいと思います。
地元の会社同士は、採用競合と考えますよね。 同じ地域の学生を隣の会社に取られたら困ると。
でも、その学生が地域で働くこと自体を選択肢に入れていなければ、隣の会社と競う以前の問題なんです。 東京や大阪へ行ってしまえば、地域内のどの会社にも入りません。
だから、近隣企業は、採用競合というより仲間だと思った方がいい。 まずは地域全体を就職先の候補に入れてもらう。会社同士で競うのは、その後です。
サイセンタン編集部: 実際に、地域で連携した採用企画に関わった経験はありますか。
菅野: あります。ある地域で、地元の金融機関に中心になってもらい、その金融機関と取引のある企業を集めて合同説明会を行ったことがあります。
金融機関も採用企業の一社として参加しながら、地域の企業が一堂に集まる場をつくる。 企画として、すごく面白いですよね。
学生からすると、一社ずつ知らない企業を探していくのは大変です。 それを「この地域には、これだけの会社と仕事があります」とまとめて見せる。
一社単位ではなく、地域全体で「ここで働く」という選択肢をつくっていく、ということです。
【参考事例】 香川労働局では、地元企業への理解を深め、高校生と企業とのマッチングを促進するため、高校生企業説明会を開催しています。行政、学校、企業などが連携し、地域の仕事をまとめて伝える取り組みは、すでに各地で行われています。 参照:香川労働局「令和8年度高校生企業説明会」 URL:https://jsite.mhlw.go.jp/kagawa-roudoukyoku/news_topics/event_00115.html
地域全体で見せるべきは、企業一覧ではなく「仕事のつながり」
サイセンタン編集部: 地域の合同説明会を開いても、それぞれの企業が自社の説明をするだけでは、一般的な合同企業説明会と変わらない気もします。 地域で行う意味を出すには、何が必要でしょうか。
菅野: 地域に、どのような産業と仕事があるのかを、つながりとして見せることだと思います。
例えば、その地域に食品メーカーがあり、その商品を運ぶ物流会社があり、機械を整備する会社があり、店舗や工場を管理する会社がある。 一社ずつ見ると、学生には知られていないかもしれません。
でも、地域の産業を支える仕事としてつなげて見せれば、「この街には、こういう仕事があるんだ」と分かります。
学生は、知らない会社を嫌っているというより、判断材料がないんです。 何をしている会社なのか。生活のどこにつながっているのか。自分が入社したら、誰の役に立つのか。 地域の仕事を、学生に分かる言葉へ翻訳することが必要です。
金融機関、自治体、商工団体、学校などが関われば、地域の企業をまとめて見せることもできます。 一社で大きな採用広告を出すのが難しくても、地域全体なら接点をつくれる可能性があります。
学生が大学3年生になってからでは遅い
サイセンタン編集部: 企業が学生と接点をつくる時期については、どう考えていますか。 一般的には、大学3年生のインターンシップや就職活動が始まってから接触します。
菅野: 地方企業については、それでは遅い場合があると思います。
大学へ進学して地元を離れ、東京や大阪の企業をたくさん見るようになってから、初めて地元企業を知ってもらおうとしても、比較の中に入るのが難しい。 高校生までに、「地元にはこういう会社や仕事がある」と知っていることは大きいと思います。
すぐ採用につながらなくてもいいんです。
高校生の段階で、地元企業の社員が学校へ行って仕事の話をする。職場見学を受け入れる。授業の中で地域の産業を知ってもらう。 そうすると、大学進学で地域を離れても、「地元にはあの会社があった」と記憶に残ります。
何も知らない状態と、一度でも人や仕事を見たことがある状態では、地元へ戻るときの候補の出方が違うと思います。
【参考データ】 将来的に地元就職を考えるUターン潜在層の71.7%が、高校生までに地元企業を知る機会を持っていました。現在、地元就職を希望する顕在層の58.4%、地元就職を現在も将来も考えていない非志向層の53.4%と比べても、高い割合です。 参照:マイナビ「2027年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査」 URL:https://career-research.mynavi.jp/reserch/20260515_110438/
学生本人だけでなく、家族へ説明できる情報を渡す
サイセンタン編集部: 地方就職では、保護者や家族の意向も影響するのでしょうか。
菅野: 影響すると思います。 最終的に決めるのは本人です。
ただ、就職活動中の学生は、家に帰って家族へ相談します。 「今日見た会社は、どんな会社だったの?」 そう聞かれたときに、「人が良さそうだった」だけでは、家族も判断できません。
何をしている会社なのか。どのような企業と取引しているのか。経営は安定しているのか。給与はいくらか。勤務地はどこか。転勤はあるのか。 学生が家族へ説明できる材料を、企業側から渡しておく必要があります。
サイセンタン編集部: 本人に響く情報と、家族が安心する情報は、少し違いますか。
菅野: 違うと思います。
学生本人には、「この人たちと働きたい」「自分を理解してもらえた」という感情が効くことがあります。 一方、保護者は、安心して送り出せるかを見ます。
経営の安定性や取引先、給与、休日、勤務地、相談体制など、具体的な事実が必要です。
だから、感情だけでも、数字だけでも足りない。 学生本人が魅力を感じ、家族にも説明できる。その両方が必要です。
【参考データ】 リクルートマネジメントソリューションズの2025年新卒採用調査では、就職活動における相談相手として、家族が主要な存在であることが示されています。また、学生が企業へ応募するきっかけでは、「希望する勤務地で働けそうだから」が68.5%で最も多くなっています。 参照:リクルートマネジメントソリューションズ「2025年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」 URL:https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/9518371732/
地方企業は、入社後の「人・場所・仕事」を具体的に見せられる
サイセンタン編集部: 大手企業にはなく、地方の中小企業だからこそ見せられる情報はありますか。
菅野: 実際に働く人や場所を、かなり具体的に見せられることだと思います。
大手企業では、採用段階で配属先が決まっていなかったり、勤務地が複数あったりします。 採用担当者と、入社後に一緒に働く人がまったく違うこともあります。
中小企業であれば、どの職場で働く可能性が高いか、誰が上司になるのか、最初にどのような仕事をするのかを、比較的具体的に伝えられます。
もちろん、将来変わる可能性があることを約束してはいけません。 でも、現時点で想定していることまで、曖昧にする必要はありません。
「配属は入社後に決めます」 「いろいろな仕事を経験してもらいます」 それだけでは、学生は働く姿を想像できません。
実際の職場を見せ、上司や先輩と話してもらう。 一日の仕事だけでなく、入社後3か月、1年、3年で何を任せたいのかを話す。
地方企業は、学生一人ひとりに対して、かなり手触りのある未来を見せられるはずです。
【参考データ】 学生の志望度が上がった要因の1位は、「自分がその企業で働くイメージを持つことができた」で39.0%でした。また、入社前に勤務地が分からない場合、66%の学生が入社意向が下がると回答しています。 参照:リクルートマネジメントソリューションズ「2025年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」 URL:https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/9518371732/
採用サイトは、会社案内ではなく「学生が選ぶための材料」にする
サイセンタン編集部: ここまでの話を、採用サイトや求人情報に反映する場合、どのようなコンテンツが必要でしょうか。
菅野: 会社が伝えたい順番ではなく、学生が知りたい順番でつくることです。
企業理念、社長メッセージ、会社概要、事業内容。 会社側は、こうした情報から伝えたくなります。
でも、学生が最初に知りたいのは、「自分がここで働けるのか」ということです。 勤務地、仕事内容、給与、休日、働く人、職場の雰囲気。
まず、ここを具体的に見せる。 そのうえで、なぜその事業を行っているのか、地域でどのような役割を担っているのか、会社がどこを目指しているのかを伝える方が、意味が届きやすいと思います。
サイセンタン編集部: 地方企業の採用サイトで、特に載せた方がよいものを挙げるとしたら。
菅野: 例えば、次のような情報です。
入社後に担当する可能性が高い仕事。実際に働く職場と、一緒に働く人。通勤方法と、社員が住んでいるエリア。一人暮らしや車通勤に必要な費用。平日の退勤時間と、退勤後の過ごし方。 若手社員の一週間や、配属先の上司・先輩がどのような人なのかも見せたいですね。
地域の中で、その会社がどのような役割を果たしているのか。家族へ説明するための事業や経営の情報も必要です。
そして、地方で働くことの良い面だけではなく、不便な面も伝えた方がいい。 車が必要なのか。都市部より店が少ないのか。地域の人間関係が近いのか。
そうしたことも伝えたうえで、「それでも自分に合う」と思う学生に来てもらう方が、入社後のミスマッチも減ります。
新卒で採れなかった学生も、3年後、5年後の候補者になる
サイセンタン編集部: 地方企業が時間や費用をかけて新卒採用をしても、その年に採用できないことがあります。 採用できなければ、その活動は失敗なのでしょうか。
菅野: もちろん、新卒採用をする以上、その年に入社してもらうことが第一です。 でも、それだけで考えない方がいいと思います。
新卒採用は、同じ年代の多くの人が一斉に企業を見る、極めて分かりやすい市場です。 中途採用は、転職者がそれぞれのタイミングで動きますよね。
新卒だけは、毎年、多くの学生が同じ時期に会社を探します。 このタイミングで、自社のことを知ってもらう。
新卒では入社しなかったとしても、3年後、5年後に地元へ戻ろうとしたときに思い出してもらう。 それも、中小企業にとっては重要な採用戦略です。
サイセンタン編集部: 新卒採用を、将来のUターン採用や中途採用の入り口としても捉えると。
菅野: そうですね。 新卒で別の会社へ行った学生が、数年後に「やはり地元へ戻りたい」と考えることはあります。
そのとき、地元企業について何も知らなければ、探すところから始めなければなりません。 でも、学生時代に説明会へ参加し、社員と話し、良い印象を持っていた会社があれば、候補に入りやすくなります。
だから、不採用にする学生や、他社へ行く学生も雑に扱わないことです。 選考へ来てくれたことに感謝し、会社や仕事についてきちんと伝え、良い印象で終える。
今年採用できなかった学生との接点も、地域の採用資産として残していく。 地方企業では、そういう長い視点が必要だと思います。
大手企業に近づくのではなく、自社が見せられる未来を深くする
サイセンタン編集部: 最後に、地方の中小企業で新卒採用を担当する方へ、改めて伝えたいことをお願いします。
菅野: 大手企業と同じことをしなくていい、ということです。
大手企業と同じ時期に、同じ媒体を使い、同じ内容のインターンシップを行い、同じような会社説明会をする。 でも、規模も予算も違います。 同じことを小さくやったら、大手企業の採用活動の縮小版になってしまいます。
地方企業には、地方企業だからできることがあります。 学生一人ひとりと話せる。実際の職場を見せられる。一緒に働く人を紹介できる。勤務地や仕事を具体的に伝えられる。 その地域で、どのような毎日を送れるかまで見せられる。
一社で難しければ、地域の企業、学校、金融機関、自治体と一緒にやればいい。
地方企業の採用で必要なのは、大手企業のように見せることではありません。 その会社、その地域で働くことが、どのような人生につながるのか。 それを、学生が自分の生活として想像できるところまで具体的にすることです。
「地域密着です」「人が良い会社です」だけではなく、仕事、収入、通勤、家族、友人、休日、一緒に働く人まで見せる。 学生が家に帰り、自分の言葉で家族へ説明できる状態をつくる。
そこまでできれば、会社の大きさとは別の理由で、選ばれる可能性が生まれると思います。
地方企業の採用担当者が見直したい7つのポイント
学生は、入社後の平日を想像できるか 仕事内容だけでなく、通勤、始業・終業時間、帰宅後の過ごし方まで伝えます。
「地域密着」を具体的に説明できるか 地域の中で誰を支え、どのような役割を担っている会社なのかを、学生が理解できる言葉にします。
生活設計に必要な情報を公開しているか 初任給、手当、残業代、住宅、通勤、車の必要性などを曖昧にせず示します。
実際に働く人と場所を見せているか 採用担当者だけでなく、配属先の上司や先輩社員、実際の職場との接点をつくります。
家族が安心できる情報を渡しているか 事業の安定性、取引先、勤務地、休日、相談体制などを、学生が持ち帰れるようにします。
一社だけで学生を集めようとしていないか 近隣企業、学校、金融機関、自治体などと連携し、地域で働く選択肢そのものを伝えます。
今年入社しない学生との接点を失っていないか 辞退者や不採用者も良い印象で終え、将来のUターンや中途採用につながる関係をつくります。
続く第2回では、「夏のインターンシップ」と「後半戦の戦い方」に迫ります
第1回では、地方の中小企業が大手企業とどう戦うべきか、「地域での生活全体を見せる」という視点をお伝えしました。しかし、いざ具体的な採用施策を進める中で、次のような壁にぶつかることはないでしょうか。
「夏のインターンに学生は集まるのに、なぜか選考や入社に繋がらない」 「採用担当者が少なく、今年度の採用と次年度の準備の板挟みになっている」
【新卒採用の常識を見直す 第2回】では、こうした中小企業ならではのリアルな悩みにお答えします。
【第2回はコチラ⇒】
インタビューに登場した人
菅野 智文さん
株式会社ここだな 代表取締役 元リクルート「就職ジャーナル」編集長
株式会社リクルートにおいて、新卒採用や学生の就職活動に関わる事業に長く従事し、「就職ジャーナル」の編集長を経験。 現在は「株式会社ここだな」の代表取締役として、学生や若者のキャリア形成・就職支援、大学や企業に関わる各種支援に取り組んでいます。 企業が伝えたい採用情報だけではなく、学生が就職活動の中で何を感じ、何を不安に思い、どのように企業を選んでいるのかという視点から、新卒採用のあり方を提言しています。
株式会社ここだな URL:https://kokodana.co.jp/
新卒採用を、応募数だけで考えていませんか?
本連載では、地方企業や中小企業の新卒採用について、次のようなテーマを取り上げてきました。
・大手企業と同じ条件で比較されないための魅力づくり ・夏インターンシップと秋以降の採用戦略 ・エントリー数だけに頼らない採用KPI ・説明会や面接での学生理解と動機形成 ・内定辞退を防ぐための個別フォロー
これらに共通しているのは、採用媒体へ求人を掲載するだけでは、採用課題のすべてを解決できないということです。
応募が集まらない原因が、求人情報にあるとは限りません。 説明会への案内方法、学生へ伝える情報、面接官の対応、選考スピード、職場の見せ方、内定後のフォローなど、採用活動全体を見直す必要がある場合もあります。
株式会社アド・イーグルでは、新卒・中途・アルバイト採用における求人広告の掲載だけでなく、採用戦略の立案、求人原稿や採用サイトの制作、応募効果の改善、選考への導線設計など、企業の採用活動を幅広く支援しています。
このようなお悩みをご相談ください
・新卒採用を始めたいが、何から着手すべきか分からない ・エントリーはあるが、説明会や選考へつながらない ・自社の魅力を学生へうまく伝えられていない ・大手企業や同業他社との差別化ができていない ・面接辞退や内定辞退が多い ・採用担当者が少なく、学生への個別対応ができない ・求人媒体、採用サイト、説明会の役割を整理したい ・現在の新卒採用活動を一度、客観的に見直したい
採用人数や募集職種、これまでの採用状況を伺いながら、応募を集める方法だけでなく、説明会、選考、内定者フォローまで含めて、改善すべきポイントを整理します。
新卒採用・採用活動に関するお問い合わせ
株式会社アド・イーグル URL:https://www.adeagle.co.jp/
お問い合わせフォーム URL:https://www.adeagle.co.jp/contact
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