前回の第3回では、「見栄えのよい応募数」の罠から抜け出し、目の前に来てくれた学生一人ひとりを深く理解することの重要性をお伝えしました。
しかし、いざ学生が会社説明会や選考に来てくれたとき、企業側は「自社の魅力を伝えたい」という思いから、いきなり企業理念や創業の歴史、事業の社会的意義といった壮大なビジョンを熱く語ってしまっていないでしょうか。
実は、会社名を見たことがある程度のきっかけで参加している学生にとって、最初からビジョンを語られても十分に受け止めることができません。「一生懸命説明しているのに、選考辞退が多い」「面接で学生の志望度が上がらない」と悩む背景には、この「伝える順番のミス」が潜んでいる可能性があります。
学生が最初に確かめたいのは、ビジョンへの共感ではなく「自分がここで働いていけるのか」というリアルな不安の解消です。
続く第4回のテーマは、選考辞退を減らし、学生の気持ちを確実に高めていくためのコミュニケーション設計です。今回も、新卒採用や地方学生の就職支援に長く携わってきた菅野智文さんに、学生の志望度を「安心→理解→味方→ファン」という4つの段階で引き上げていく具体的なステップについて伺いました。
説明会へ来る学生は、自社のことをほとんど知らない
サイセンタン編集部: 採用活動では、まず会社説明会で企業理念や事業内容を伝え、その後に面接を行うという流れが一般的です。 説明会の構成を考える際に、企業が見落としやすいことはありますか。
菅野: 企業側が勘違いしやすいのは、会社説明会へ来る学生は、すでに自社のことを知っていて、興味を持っていると思ってしまうことです。
でも、実際には、ほとんど知らないまま来ている学生も多いと思います。 たまたま就職情報サイトで見つけた。 勤務地や職種が希望に近かった。 説明会の日程が合った。 合同説明会で少し話を聞いた。 そのくらいの状態かもしれません。
サイセンタン編集部: 企業側は「興味を持って来てくれた」と考えていますが、学生にとっては、まだ情報収集の入口にすぎない。
菅野: そうです。 企業側は、自社のことを知ってほしいので、会社の歴史や事業、社長の思い、ビジョンを最初から丁寧に話します。 でも、学生からすれば、その会社が自分に関係のある会社なのか、まだ判断できていません。
知らない会社のビジョンを長く聞かされても、なかなか頭には入らないと思います。 まず、「自分がこの会社で働く可能性がある」と思ってもらわなければ、その先の話を聞いてもらうのは難しいです。
昔の説明会の定番を、そのまま続けなくてよい
サイセンタン編集部: 会社説明会では、冒頭に企業理念やビジョンを置く構成が多いと思います。 菅野さんは、そこを変えた方がよいと考えていますか。
菅野: 昔のスタンダードは、一度疑った方がよいと思います。 最初に会社の歴史があり、社長のメッセージがあり、企業理念があり、事業説明が続く。 学生が知りたい給与や勤務地、仕事内容、人間関係は、かなり後ろに出てくる。
でも、今の学生が、その順番で最後まで集中して聞いてくれるとは限りません。
サイセンタン編集部: 一番伝えたいことを、後半まで取っておかない方がよい。
菅野: そうですね。 一番大事なエッセンスは、最初に出した方がよいと思います。
この会社は何をしている会社なのか。 どこで働くのか。 どのような仕事を任されるのか。 どのような人が働いているのか。 給与や休日はどうなっているのか。
まず、「自分に関係がある」と思える情報を出す。 そのうえで興味を持ってもらえたら、事業の背景やビジョンを伝える。 ビジョンが大切ではないという話ではありません。 伝える順番の問題です。
第1段階は「安心」――ここで働いていけそうと思ってもらう
サイセンタン編集部: 学生の気持ちを高めていく最初の段階は、何でしょうか。
菅野: 最初は、絶対的に安心だと思います。 安心、安全というところです。
この会社で生活を成り立たせられるのか。 職場の人間関係は大丈夫そうか。 きちんと教えてもらえるのか。 自分のような人間でも、ここでやっていけるのか。
まず、そこを感じてもらわなければ、先の話は聞いてもらいにくいと思います。
サイセンタン編集部: 企業としては、学生に夢や成長性を伝えたくなります。
菅野: もちろん、それも必要です。 でも、「ここで安心して働けそう」と思えていない状態で、「当社はこの業界を変えます」「将来はこういう会社を目指します」と言われても、学生にとっては遠い話なんです。
特に中小企業は、学生が会社名を知らないこともあります。 どのような経営状態なのか。どのような顧客がいるのか。入社後に放置されないか。人間関係はどうなのか。 そういう不安を持ったまま説明会へ来ています。
まず、信頼に足る会社だと思ってもらう。 「一度、面接を受けてみてもよいかもしれない」と思ってもらう。 説明会の最初の役割は、そこだと思います。
【参考データ】 2027年卒学生が企業選びで重視する項目は、「安定している会社」が55.4%で最多でした。「給料の良い会社」も26.6%となり、「自分のやりたい仕事ができる会社」の25.5%を上回っています。学生に将来の夢を伝える前に、安定性や生活条件について具体的に示す必要性が高まっています。 参照:マイナビ「2027年卒大学生就職意識調査」 URL:https://career-research.mynavi.jp/reserch/20260424_109895/
「安心させる」とは、良いことだけを並べることではない
サイセンタン編集部: 安心感を与えるというと、会社の良い面を強調することになりませんか。
菅野: 良いことだけを言うという意味ではありません。 むしろ、曖昧にしないことだと思います。
給与はいくらなのか。 残業はどのくらいあるのか。 休日はどうなっているのか。 勤務地はどこなのか。 転勤の可能性はあるのか。 どの部署へ配属される可能性があるのか。 仕事で大変なことは何なのか。
分かっていることを、きちんと伝えることです。
サイセンタン編集部: 不都合なことを隠すのではなく、学生が判断できる情報を出す。
菅野: そうです。 「アットホームです」「先輩が優しく教えます」と言うだけでは、安心にはなりません。
誰が教えるのか。 どのくらいの期間、どのように教えるのか。 困ったときは誰に相談できるのか。 実際に若手社員がどのような働き方をしているのか。
そこまで見えて、初めて安心できます。 学生を説得するために情報を出すのではなく、学生が自分で判断できるように情報を出す。 それが信頼につながると思います。
第2段階は「理解」――一次面接は選抜だけの場ではない
サイセンタン編集部: 説明会で安心感を持ち、「面接を受けてみよう」と思ってもらった後は、どのような段階になるのでしょうか。
菅野: 次は、学生を理解する段階です。 一次面接を、企業が学生を選ぶだけの場にしないことです。 中小企業の場合、選考することよりも、半分以上は学生に自社を選んでもらうつもりで進めてもよいと思います。
サイセンタン編集部: 一次面接でも、企業側が学生を引きつける必要がある。
菅野: そうです。 もちろん、採用基準に合うかどうかは見なければいけません。 ただ、企業が一方的に質問し、学生が正解を探して答えるだけの面接では、学生の志望度は上がりません。
その学生が、何を大切にしているのか。 就職することに、何を不安に感じているのか。 どのような就職活動をしてきたのか。 他にどのような会社を見ているのか。 仕事だけでなく、どのような生活をしたいのか。 そうしたことを理解するために話を聞きます。
【参考データ】 2025年卒学生を対象とした調査では、学生の志望度が最も高まった場面として、「面接」と「インターンシップ」が上位となりました。また、志望度向上に影響した要因の1位は、「自分がその企業で働くイメージを持つことができた」でした。面接は、学生を評価するだけでなく、自社で働く姿を具体化する重要な場です。 参照:リクルートマネジメントソリューションズ「2025年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」 URL:https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/9518371732/
企業を理解してもらう前に、「自分を理解してもらえた」と感じてもらう
サイセンタン編集部: 採用活動では「企業理解を深める」という言葉がよく使われます。 菅野さんは、それ以上に学生理解が重要だと考えていますか。
菅野: 企業理解も必要です。 でも、辞退を減らすうえで非常に強いのは、学生が「自分のことを分かってもらえた」と感じることだと思います。
会社の事業や制度を詳しく説明してもらっただけでは、学生にとっては情報を受け取った状態です。 一方で、自分が大切にしていることや、不安に感じていることを聞いてもらい、そのうえで「あなたには、当社のこういう部分が合うと思う」と伝えてもらう。 これは、受け取り方がまったく違います。
サイセンタン編集部: 一般的な会社説明ではなく、その学生に合わせて会社の情報を返す。
菅野: そうです。 例えば、学生が「仕事を覚えられるか不安です」と話したのであれば、研修制度の一覧を説明するだけではなく、実際に誰が、どのように教えるのかを伝える。 家族との時間を大切にしたいのであれば、休日数を伝えるだけではなく、社員がどのように休みを取っているのかを話す。
自分が話した内容を受けて、企業が回答してくれた。 それによって、「この会社は自分のことを理解しようとしてくれた」と感じます。
口説くのが得意でない人でも、まず理解しようとして聞くことはできます。 そこから始めればよいと思います。
【参考データ】 2026年卒学生を対象とした採用CX調査では、選考参加意欲への影響が最も大きい評価項目は、2年連続で「誠実さ」でした。学生は、企業との対等なコミュニケーションや、自分が納得できる選考を重視しています。個人面接は、学生から最も高く評価された選考プロセスでした。 参照:リクルートマネジメントソリューションズ「採用CX(候補者体験)に関する意識調査(2025)」 URL:https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/8709951716/
中途採用の面接官を、そのまま新卒面接へ入れる危険
サイセンタン編集部: 面接官が足りない場合、中途採用を担当している社員や現場管理職に、新卒面接を依頼する会社もあります。 この方法には問題がありますか。
菅野: 中途採用の面接官を入れること自体が悪いわけではありません。 ただ、中途採用と同じ感覚で新卒学生へ接すると、失敗することがあります。
僕が見た会社でも、中途採用を担当している面接官が新卒面接を手伝ったところ、その面接官が担当した学生の離脱率が明確に高くなっていました。 話を聞くと、少し上から、厳しめの質問をしていたんです。
サイセンタン編集部: 中途採用では、経験や実績を確認するために厳しく質問する場面もあります。
菅野: そうですね。 中途採用では、これまで何をしてきたのか、入社後に何ができるのかを確認します。 でも、新卒学生には、仕事の実績がありません。 学生自身も、面接に慣れていません。
そこへ圧迫するような質問をすると、「この会社では、普段からこのように詰められるのではないか」と感じます。 面接官は仕事への厳しさを確認したつもりでも、学生には会社の人間関係として伝わります。
サイセンタン編集部: 面接官個人の態度が、会社全体の印象になる。
菅野: そうです。 学生にとって、面接官はその会社の代表です。 「この人とは働かないかもしれないから」とは考えてくれません。
この会社には、こういう人がいる。 この会社では、自分はこういう扱いを受ける。 そのように判断されます。
【参考データ】 面接に関する研究では、面接官の特徴、面接官からの評価、応募者への反応が、学生の志望度に影響することが示されています。特に、面接官が温かい態度で接し、学生の話をしっかりと聞く姿勢が重要とされています。一方、印象に残った面接を「悪かった」「とても悪かった」と答えた人は22%でした。 参照:リクルートマネジメントソリューションズ「アトラクトにおける面接官の重要性」 URL:https://www.recruit-ms.co.jp/research/study_report/0000001505/
面接官の役割は、質問することだけではない
サイセンタン編集部: 学生の志望度を高める面接にするには、面接官はどのようなことを意識すればよいでしょうか。
菅野: まず、反応することだと思います。 学生が話したことに対して、何も反応せず、次の質問へ進む面接があります。 面接官は評価シートを埋めることに集中しています。
学生が一生懸命話しても、「はい、分かりました。では次の質問です」と進んでいく。 これでは、自分の話が伝わったのか分かりません。
サイセンタン編集部: 話を聞くだけではなく、受け止めたことを返す。
菅野: そうです。 「そういう経験をしてきたんですね」 「その考え方は、当社のこの仕事でも生かせると思います」 「そこを不安に感じているのであれば、実際の職場を見てもらいましょう」
学生の話を踏まえて反応する。 良いと思ったところは、きちんと伝える。 自社と合う部分があるなら、なぜ合うのかを話す。
面接は、学生が企業から評価される場であると同時に、企業からどのように見られたのかを確認する場でもあります。 何の反応もなければ、「自分には興味を持たれていない」と感じるかもしれません。
第3段階は「味方」――次の面接へ送り出す人になる
サイセンタン編集部: 一次面接が終わり、学生が「自分のことを理解してもらえた」と感じた後は、どのような関係をつくればよいでしょうか。
菅野: 採用担当者が、学生の味方になることです。 例えば、一次面接を担当した採用担当者が、二次面接の前に学生へ連絡する。
「次の面接官はこういう人です」 「あなたが気にしていたことは、次の面接で確認した方がいいです」 「この質問については、自分の考えを整理しておくと話しやすいと思います」 「私も応援しているので、頑張ってください」
そうやって、次の面接へ送り出します。
サイセンタン編集部: 企業側の人なのに、学生側の立場にも立つ。
菅野: そうです。 学生からすると、社内に自分の味方がいる状態になります。 選考のたびに、知らない人から評価されるのではなく、最初に話した採用担当者が、その後も自分のことを見てくれている。 それだけでも安心感は大きいと思います。
サイセンタン編集部: 採用担当から、次の面接官へ学生の情報を渡すことも必要ですね。
菅野: 必要です。 学生には「次の面接でも同じ質問に、最初から全部答えてください」と言いながら、社内では何も共有されていないことがあります。 それでは、学生は「前に話したことは何だったのだろう」と感じます。
学生が何を大切にしているのか。 何を不安に感じているのか。 どの部分に自社との接点があったのか。
採用担当者から次の面接官へ伝える。 そして次の面接でも、前回の話を踏まえた会話をする。 選考全体を、一つのつながったコミュニケーションにすることが重要です。
「次はラスボスです」と学生を構えさせない
サイセンタン編集部: 最終面接では、社長や役員が登場する会社も多いと思います。 最終面接官は、どのように振る舞うべきでしょうか。
菅野: 会社側が「いよいよ最終面接です」「最後は社長です」と言いすぎると、学生にとってはラスボスのようになりますよね。 最後に一番偉い人から厳しく判断される。 そういう構図になります。
最終判断をすることは必要です。 社長が「この学生は採れない」と考えることも当然あります。 ただ、お願いしたいのは、採用する場合も不採用にする場合も、良い印象で終えることです。
サイセンタン編集部: 不採用にすると決めた後も、面接を雑に終わらせない。
菅野: そうです。 面接の最初の数分で「今回は採らない」と決めたとしても、急に話を切り上げたり、関心を失った態度を見せたりしてはいけません。
学生は、時間を使ってその会社へ来ています。 それまでに説明会へ参加し、何度か面接を受けています。 最後の最後に嫌な印象を持てば、それまでの良い体験が全部消えてしまいます。
最終面接官は、採用する人を選ぶだけではなく、その会社についての最終印象をつくる人でもあります。
第4段階は「ファン」――採用しない学生とも、良い関係で終える
サイセンタン編集部: 菅野さんは、不採用者や辞退者も含めて「ファンで終わらせる」ことが大切だと話されています。 これは、どのような考え方でしょうか。
菅野: 採用できなかったとしても、「良い会社だった」と思ってもらうことです。
不採用になった学生が、顧客になるかもしれません。 取引先へ入社するかもしれません。 友人や後輩に、その会社のことを話すかもしれません。 数年後に中途採用へ応募する可能性もあります。
反対に、最終面接で嫌な思いをすれば、その体験も人に話します。
サイセンタン編集部: 採用の合否にかかわらず、会社の評判は残る。
菅野: そうです。 特に中小企業は、採用で会える学生の人数が限られています。 その一人ひとりが、会社を知ってくれた貴重な人です。
採用しないから、もう関係ない。 辞退されたから、もう連絡しない。 そうではなく、最後まで誠実に対応する。
「結果は残念だったけれど、きちんと向き合ってくれた会社だった」と思ってもらう。 そこまでが採用活動だと思います。
辞退理由を知りたいなら、会社の聞き方も見直す
サイセンタン編集部: 辞退した学生に理由を聞いても、「一身上の都合」「他社へ決めました」としか答えてもらえないことがあります。 本当の理由を把握する方法はありますか。
菅野: 会社へ直接、本音を言うのは難しいですよね。 「面接官の態度が嫌でした」 「社長の話を聞いて、働きたくないと思いました」 「採用担当者の連絡が遅かったです」 学生から企業へは、なかなか言えません。
ですから、外部の人に辞退者インタビューをお願いする方法もあります。 匿名性を担保し、本人の名前が分からない形で、何人かの意見をまとめて会社へ返す。 そうすれば、社内では言いづらい問題も見えるかもしれません。
サイセンタン編集部: 辞退率を見るだけではなく、学生がどのような体験をしたのかを確認する。
菅野: そうです。 「今年は辞退が多かった」で終わらせず、説明会、一次面接、二次面接、最終面接のどこで印象が変わったのかを見る。 担当者本人には言いにくいこともあります。 だからこそ、外部の視点を入れる意味があります。
説明会担当者は「新人の練習役」ではない
サイセンタン編集部: 会社説明会は、若手人事担当者や異動してきたばかりの社員へ任せる会社もあります。 経験を積ませる意味もあると思いますが、どう考えますか。
菅野: 説明会担当者は、会社の顔です。 そこを、新人の練習の場にするのは違うと思います。
もちろん、若手社員だから悪いという意味ではありません。 学生に近い年齢で、分かりやすく話せる人なら、非常に良いと思います。 ただ、「説明会くらいなら、新人の練習にちょうどよい」という考え方には反対です。
サイセンタン編集部: 説明会の印象が、そのまま会社の印象になります。
菅野: そうです。 話が抜群にうまい必要はありません。 営業力のある人でなくてもよいと思います。 ただ、誠実さが伝わる。学生の質問をきちんと聞ける。自分の言葉で会社を説明できる。 その会社の顔として見せたい人を配置するべきです。
採用人数が少ない中小企業ほど、説明会で出会う一人ひとりの影響が大きいです。 そこを研修の場として軽く扱ってはいけないと思います。
全員が「口説けるスーパー人事」である必要はない
サイセンタン編集部: 学生の志望度を高めるには、営業力があり、学生の懐へ入れるような、優秀な採用担当者が必要なのでしょうか。
菅野: そういう人が一人いると、もちろん強いと思います。 人が好きで、学生のことを覚え、自然に関係をつくれる人です。 大手企業の優秀な採用担当者は、非常に多くの学生に会っているのに、「あの大学の、あの学生ですよね」と覚えています。
中小企業も、それくらい一人ひとりを見た方がよいと思います。 ただ、採用に関わる全員が、学生を口説ける人である必要はありません。
サイセンタン編集部: 口説くのが得意ではない社員には、どのような役割がありますか。
菅野: 口説こうとせず、理解しようとして聞けばよいと思います。 これは、比較的多くの人ができます。
学生の話を聞く。 何を大切にしているのかを確認する。 そのうえで、自社でできることを伝える。 「あなたのことを分かったうえで、来てほしいと思っています」 その状態をつくることが大切です。
また、元気で話のうまい社員ばかりを出せばよいわけでもありません。 静かな学生や内向的な学生は、「自分はこの会社には合わない」と感じるかもしれません。 さまざまなタイプの社員と会える方が、学生も自分に近い人を見つけやすくなります。
効率化する部分と、人が担う部分を分ける
サイセンタン編集部: 採用業務では、AIや自動化を活用する企業も増えています。 説明会や選考の魅力づけまで、効率化できるのでしょうか。
菅野: 効率化できるところは、どんどん効率化したらよいと思います。 日程調整、案内メール、資料づくり、質問の準備、学生情報の整理。 そういう部分では、AIも使えます。 面談でどのような質問をするとよいか、ヒントを出してもらうこともできます。
ただ、学生を動機づけることや、理解しようとして話を聞くことは、人が担った方がよいと思います。
サイセンタン編集部: すべてを人が行うのではなく、人にしかできないところへ時間を使う。
菅野: そうです。 採用担当者が日程調整やメール送信で忙しくなり、学生と話す時間がなくなっているのであれば、本末転倒です。
作業は効率化する。 その分、一人ひとりと話す。 学生の言葉を聞き、その場で反応する。 味方になり、次の面接へ送り出す。 中小企業は、そこに人の力を使った方がよいと思います。
説明会から最終面接までを見直す8つのポイント
説明会の参加者が、自社を知っていると思い込んでいないか 学生は、企業についてほとんど知らない状態で参加しているという前提から構成します。
ビジョンや会社の歴史から説明を始めていないか 最初に、仕事内容、勤務地、給与、休日、働く人など、学生が自分との関係を判断できる情報を伝えます。
「ここで働けそう」という安心感をつくれているか 制度名だけでなく、入社後に誰が、どのように支援するのかまで具体的に示します。
面接が、企業からの質問だけで終わっていないか 学生の価値観や不安を理解し、その内容を踏まえて自社の情報を返します。
面接官が学生の話に反応しているか 学生の良かった点、自社と合う点、次に確認したい点を、言葉にして返します。
次の面接へ進む学生に、味方がいるか 採用担当者が面接の準備を支援し、社内でも学生の情報を次の面接官へ共有します。
最終面接が「最後の圧迫試験」になっていないか 合否にかかわらず、学生が良い印象で選考を終えられる対応を徹底します。
辞退者や不採用者を、関係のない人として扱っていないか 将来の応募者、顧客、取引先、評判の担い手になる可能性を考え、最後まで誠実に対応します。
選考辞退を減らすのは、特別な口説き文句ではない
サイセンタン編集部: 最後に、説明会や選考途中の辞退に悩んでいる企業へ、伝えたいことをお願いします。
菅野: 学生を入社させるための、特別な口説き文句があるわけではないと思います。
まず、安心して働ける会社だと感じてもらう。 次に、その学生が何を大切にし、何に不安を感じているかを理解する。 選考が進んだら、採用担当者が学生の味方になる。 そして、採用する場合も、採用しない場合も、良い印象で終える。 その積み重ねです。
会社説明会へ来た時点で、学生が自社のファンになっていると思ってはいけません。 最初は、ほとんど知らない会社です。 そこから、一つずつ信頼をつくっていく。
企業が自分のことばかりを話すのではなく、学生の話を聞く。 選ぶ側として構えるのではなく、学生からも選ばれていると考える。
大手企業のような豪華な説明会や、特別な選考企画がなくても、これはできます。 中小企業だからこそ、一人ひとりと話せます。 採用担当者が学生の名前を覚え、その人に合わせた言葉を返し、次の面接へ送り出すことができます。
説明会から最終面接までを、別々のイベントとして扱わないことです。 安心してもらう。理解する。味方になる。ファンで終わってもらう。 この流れをつくることが、選考辞退を減らし、学生から選ばれる採用につながると思います。
最終回(第5回)では、入社まで気を抜けない「内定辞退を防ぐフォロー」に迫ります
第4回では、選考中の辞退を減らすためのコミュニケーション設計についてお伝えしました。しかし、無事に内定を出し、学生から承諾の連絡をもらったからといって安心するのは危険です。
実のところ、内定を承諾したからといって、学生の入社意思が完全に固まったとは限りません。他社と比較し続けたり、家族にうまく就職先の説明ができず不安を抱えたりしているケースは少なくないのです。
連載の締めくくりとなる【新卒採用の常識を見直す 第5回】では、企業が陥りがちな「内定者フォロー」の間違いと、中小企業ならではの強みを活かした辞退防止策について伺います。
【最終回(第5回)はコチラ⇒】
インタビューに登場した人
菅野 智文さん 株式会社ここだな 代表取締役 元リクルート「就職ジャーナル」編集長
株式会社リクルートにおいて、新卒採用や学生の就職活動に関わる事業に長く従事し、「就職ジャーナル」の編集長を経験。 現在は「株式会社ここだな」の代表取締役として、学生や若者のキャリア形成・就職支援、大学や企業に関わる各種支援に取り組んでいます。 企業が伝えたい採用情報だけではなく、学生が就職活動の中で何を感じ、何を不安に思い、どのように企業を選んでいるのかという視点から、新卒採用のあり方を提言しています。
株式会社ここだな URL:https://kokodana.co.jp/
新卒採用を、応募数だけで考えていませんか?
本連載では、地方企業や中小企業の新卒採用について、次のようなテーマを取り上げてきました。
・大手企業と同じ条件で比較されないための魅力づくり ・夏インターンシップと秋以降の採用戦略 ・エントリー数だけに頼らない採用KPI ・説明会や面接での学生理解と動機形成 ・内定辞退を防ぐための個別フォロー
これらに共通しているのは、採用媒体へ求人を掲載するだけでは、採用課題のすべてを解決できないということです。
応募が集まらない原因が、求人情報にあるとは限りません。 説明会への案内方法、学生へ伝える情報、面接官の対応、選考スピード、職場の見せ方、内定後のフォローなど、採用活動全体を見直す必要がある場合もあります。
株式会社アド・イーグルでは、新卒・中途・アルバイト採用における求人広告の掲載だけでなく、採用戦略の立案、求人原稿や採用サイトの制作、応募効果の改善、選考への導線設計など、企業の採用活動を幅広く支援しています。
このようなお悩みをご相談ください
・新卒採用を始めたいが、何から着手すべきか分からない ・エントリーはあるが、説明会や選考へつながらない ・自社の魅力を学生へうまく伝えられていない ・大手企業や同業他社との差別化ができていない ・面接辞退や内定辞退が多い ・採用担当者が少なく、学生への個別対応ができない ・求人媒体、採用サイト、説明会の役割を整理したい ・現在の新卒採用活動を一度、客観的に見直したい
採用人数や募集職種、これまでの採用状況を伺いながら、応募を集める方法だけでなく、説明会、選考、内定者フォローまで含めて、改善すべきポイントを整理します。
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